ショパンの調べとは程遠いロックな激しい雨音で目が覚めた朝は、寝起きのいい朝です。
カーテンの向こうの水溜りに広がる無数の波紋が、
「今朝は休め」と促しているようです。
二度寝と洒落込んだものの、
微睡みの中、部屋と中央から小鳥が、
「早く起きろ」と喧しく囀り出します。
やがて、開けたカーテンの向こうが白み始めます。
気が付けば、雨は上がり、山並みの上には、まだまだ遠い朝日が反射した雲が、ほんのり頰を染めています。
これからのひと時。
写人が、あなたにお送りする写心の定期便「maguroストリーム」。
皆様のお供を致しますカメラマンは、わたくし、福田正美です。
雨は上がったものの、遅い日の出に時間はなくなり、
ルーティーンの腹筋三百回で、まだ眠りの中の体に喝を入れて叩き起こします。
いつものように、ノンアルコールの液体歯磨きでうがいをしてリビングに降りていくと、
トン、トン、トン—。
包丁がまな板を叩く小気味のいい音が聞こえてきます。
扉を開けると、味噌のいい香りが鼻腔をくすぐります。
「起きたんか。余っていた丸餅で雑煮したで」
きっと早起きしたのでしょう。
部屋は程良く暖まっています。
「余ったお汁はもったないで、今夜味噌汁代わりに飲めばいいで、早よ帰ってきね」
「おいおい。まだ、出掛けてもいないのに」
何気ない言葉に苦笑いです。
「こんなことより、昨夜の写心見せて」
「はあ?」
「あれあれ」
と母親はニコニコしながら指を指します。
「この部屋にもあるのお」
「ん?」
「ああ。あれかあ」
ブラウン管の中のルーブル美術館のモナリザを観て、微笑んでいます。
「おお。横にモナリザの微笑みがおる」
とぼける息子に、
「ほうか」
「否定せんのかあーい」
ひとしきり二人で盛り上がって挙句に、
「もう寝よ」
「寝るんかあーい」
「まだ8時半やし、寝れんて」
「それにしても、えらい色褪せてるなあ」
「あれ、さくらカラーご持ってきたんや」
「???」
どうも、写真屋当時、小西六から貰ったようです。
「数十年前?物持ちいいのお。天然色フイルムって言っていた時やろ」
「百年プリントとも言っていたのお」
数秒前のことは忘れますが、何十年も前のことはよく覚えている母親が、一言。
「まだ50年しか経っていないのに、褪せつんてるのお」
二人で、ひとしきり大爆笑してパチリ。
「また証拠写心か」
「今夜はよう寝れるわの」
天然色だけに、母親の天然ぶりが頭に残って眠れない夜でした。
「ああ。よう寝た」
今朝も天然をぶちかまされました。
お送りしましたこの写心が、あなたの心に美しく溶け込みますように。
写人がお届けしました写心の定期便「maguroストリーム」。
皆様のお供を致しましたカメラマンは、わたくし、福田正美でした。