愛してるよー。
スタートの合図だ。
愛のマラニック。東尋坊をスタートして勝山平泉寺折り返しの103㌔過酷なレースだ。
加えて33度予想。選手たちは暑さとも闘うことになる。
僕は参加ではなく撮影。仕事なのだが。
風船を飛ばして一斉に飛び出す選手たちを見送ってルーティーン。
東尋坊発着で雄島を一周して戻る約7㌔の軟弱ランだ。
この他は22年前、ナホトカ号重油流出事故で4カ月通った地だ。
同時を伺わせるものは風化させないために建てられた碑だけだ。
柱状節理の断崖絶壁と東尋坊タワーを遠くに望んでひた走る。昇ったばかりの朝陽を浴びて一路雄島を目指す。
スタート時は猛暑日近くまで上がる予想が嘘のように寒かったが、太陽が顔を出すと体内に熱を感じるのが分かる。
ランナーを見送った5時過ぎ、ようやく朝陽が松林の隙間から差し込んだ。僕のスタートの合図だ。
遠くに見える日本海に浮かぶ雄島を目指す。
海風は心地よいというよりは寒さを増長させる。
朱塗りの雄島橋を渡って雄島神社の鳥居をくぐって、いざ雄島の森へ突入だ。
途中お参りをして、原生林のジャングルを抜けて一周。
一歩足を踏み入れるとヒヤッと数度気温が下がったような感じた。
やはり、何度来ても独特の空気感。誰をも寄せ付けない、圧倒的なみなぎるパワーを感じる神聖な島だ。
1997年1月7日。
ナホトカ号の船首部が漂着した場所。
流れ出た重油が紺碧の海を真っ黒な死の海に変えた。
「私らの海が死んだ」
数十年以上海に潜って自然の恵みとともに生活してきた海女たちが涙を流した。
柄杓やバケツですくってもすくっても、どうにもならない。皆、途方に暮れた。
荒れ狂う天候とも闘いながら、顔を真っ黒にしながら毎日毎日油をすくった。
全国から集まったボランティアたちも、石を一つずつタオルで拭いては海に返す。
奇跡は起きた。
4カ月後、自然の人間の力がどこまでも青い海を取り戻した。
終息宣言。
間近に迫ったゴールデンウイークに間に合った。
神様からの贈り物だったに違いない。
風化させないために建てられた、漂着座礁したナホトカ号船首部の碑。
あの4カ月間は僕の心の中から消えることはない。